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広島高等裁判所松江支部 昭和62年(ネ)79号 判決 1988年3月25日

控訴人

鳥取中央青果株式会社

右代表者代表取締役

市場幹雄

右訴訟代理人弁護士

前田修

被控訴人

上田勲

右訴訟代理人弁護士

植田勝博

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

(控訴人)

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨。

第二 主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴人において、債務者を破産者とし、かつ、同時に破産を廃止する旨の決定が確定したときは、破産手続は終了し、債権者は破産宣告前の原因に基づいて生じた債権につき破産者に属する財産に対し個別に強制執行することが許されるのは当然であり、後日免責決定が確定したことにより遡つて右債権の回収が不当利得となるいわれはないと陳述し、被控訴人において、控訴人の主張は争うと陳述したほか、原判決事実摘示及び原審、当審証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一請求の原因1ないし6の事実は当事者間に争いがない。

二おもうに、債務者を破産者とし、かつ、同時に破産を廃止する旨の決定(破産法一四五条一項)が確定したときは破産手続は終了し、右破産手続とは別個独立した免責手続においては、破産法一六条、七〇条の適用がなく、ほかに破産債権者の破産者に対する強制執行を禁止する旨の規定もないから、破産債権者は、破産者の免責申立中といえども、破産者に対し破産債権に基づく強制執行ができるものと解するのが相当である。

しかしながら、右説示のとおり、免責の審理中に破産債権者が破産債権に基づく強制執行をすることが許されるにしても、それは単にその強制執行を適法になし得るという権利の所在を示したにとどまり、右強制執行による利得の保持まで常に必ずしも正当化されるものではない。

すなわち、右破産者が後日免責決定を受け、同決定が確定したときは、たとえその免責の効力が破産廃止決定まで遡及するという規定がなくても、破産法三六六条の一二の本文中「免責を得たる破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権者に対する債務の全部につきその責任を免れる」という旨の規定概念および免責制度は、誠実な破産者を経済的に更生させ、人間に値する生活を営む権利を保障することなどを目的としているという法の趣旨に鑑みて、前記破産債権者に対し、免責手続中破産債権に基づき強制執行をして免責破産者から得た弁済金を保持させておくことは相当でなく、結局、破産債権者の右利得保持は正当性を欠くものというべく、そして、このような場合、右利得は民法七〇三条にいう法律上の原因を欠くものに該当するものといわなければならない。

三これを本件についてみるに、前記一の当事者間に争いのない請求原因事実によれば、控訴人は、被控訴人の免責申立手続中、破産債権である売掛代金の仮執行宣言付判決に基づき、被控訴人の新得財産である損害賠償債権(被控訴人の亡妻が交通事故にあつたことによるもの)について強制執行をなし、昭和六一年七月一六日五〇八万〇六四六円の弁済を受けたが、その後の同年八月八日被控訴人に対する免責決定が確定したというのであり、右の場合、控訴人の右弁済金保持は法律上の原因を欠くものというべきこと前説示のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し右不当利得金五〇八万〇六四六円および本件訴の変更申立書が控訴人に送達された翌日であること記録上明らかな昭和六一年一一月一五日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

四そうすると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官広岡保 裁判官松本昭彦 裁判官岩田嘉彦)

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